東京地方裁判所 平成4年(行ウ)37号 判決 1992年8月27日
原告 小澤功子
被告 東京国税局長
杉崎重光
右指定代理人 川田武
仲田光雄
吉森明彦
二木潔
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
理由
一 請求原因1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。
二 本件訴えの適否について
1 本件充当が「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法三条二項)に当たるかどうかにつき検討する。
国税通則法によれば、国税局長、税務署長又は税関長(以下「国税局長等」という。)は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならないものとされており(同法五七条一項本文)、右の充当があった場合には、同法施行令二三条一項所定の充当をするのに適することとなった時に、その充当をした還付金等に相当する額の国税の納付があったものとみなされ(同法五七条二項)、また、国税局長等は、同条一項による充当をしたときは、その旨をその充当に係る国税を納付すべき者に通知しなければならないものとされている(同条三項)。
これらの規定にかんがみると、同条一項による充当は、納付及び還付の各手続を簡略化するための技術的、政策的考慮に基づき、国税に関する相殺を一般的に禁止した同法一二二条の実質的な例外として特に国税局長等の行政庁にこれをすることを認めたものであって、その性質は対等当事者間で行われる民事法上の相殺と異なるところはなく、これによる還付金請求権及び未納国税債権の消滅の効果も同法五七条一項の要件を具備することによって当然に生ずるものであり、特に行政庁による認定判断が介在するものではないから、右の消滅の効果について公定力が付与されるような性質のものではないと解するのを相当とする。そうすると、右の充当が行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たるとすることはできない。
2 原告は、本件充当は、国税通則法七五条一項にいう「国税に関する法律に基づく処分」に当たるから、抗告訴訟の対象となる処分に当たると解すべきである旨の主張をする。
しかしながら、右にいう「国税に関する法律に基づく処分」とは、同法が行政不服審査法の特別法としての性格を有すること(国税通則法八〇条一項)等にかんがみると、国と納税者との間の権利義務につき一般的な規定をする法律に基づき、行政庁が公権力の行使としてする行為のうち、法律上納税者の権利義務に直接影響を及ぼすものをいうものと解されるところ、右1に判示したところに照らし、同条一項による充当は右の国税に関する法律に基づく処分に当たらないものと解される。
したがって、原告の右主張はその前提とするところにおいて失当であるから、採用することができない。
三 以上によれば、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 榮春彦 長屋文裕)